お客様は神様ではない

オーストラリアで働いてみて驚いたこと。
それは、こちらの従業員の「お客様は神様ではない」精神。

海外に行かれたことのある方はみなさん経験したことがあると思いますが、
オーストラリアのレストランやショップなどで働くスタッフの接客はとってもカジュアルです。
日本の接客に比べると友達感覚で会話しているかのようにラフ。
日本人の私からすると、「やあ、元気?何にするか決まった?」ぐらいの感覚に聞こえます。
旅行で海外を訪れると、そんな接客もむしろ醍醐味のひとつで、異国だな~と感じられるポイントでもありますよね。

それが実際働いてみると、「え、ほんとにそれでいいの?」と戸惑うことが多々あります。
例えば、最初に驚いたのはお客様がいる机に手をついて注文を取ること。
机の前で立膝になったりしゃがむこともあります。
ファミレスでもスタッフがお客様の机にメモを置いて手をついていたり、しゃがんで注文を取っていることなんて考えられませんよね。
日本でスタッフがそれをしてると「え?大丈夫?」と思ってしまいます・・・。

もう一つは、失敗が笑って許されること。
もちろん笑顔で済む失敗と済まない失敗がありますが、
日本では小さな失敗でも笑って謝ることってほぼないですよね。
「申し訳ございません」という言葉が使われるのが一般的です。
英語では「I apologise for that」が日本語の「申し訳ございません」にあたるのですが、
これを職場で聞いたことは一度もありません。
「I'm sorry about that」と謝り、そして「That's alright!」と笑顔で許されます。
何とも平和なやり取り…。

そして、そんなラフな接客だからなのか、その国の国民性なのか、
お客様の心がものすごく広いです。
私が働くレストランにはローカルのお客様と旅行客の方が5:5ぐらいの割合で来られます。
オーストラリアは人種のるつぼと言われるほど〇〇系オーストラリア人が多い上、
ワーキングホリデーや学生などで様々な人種が溢れる国です。
そのお客様が旅行客なのか現地に長く住んでいるのかは、接客した時のお客様の対応で大体わかります。
まずローカルのお客様や長く海外にいる方は、何をしてもお礼を言ってくれます。
席に案内した時、オーダーを取った後、テーブルに水を運んだ時、ドリンクや料理を運んだ時、
空いたプレートを下げる時、お金を払う時。
全てのタイミングで「ありがとう」とお客様から言われます。
日本やアジアでは接客されることが当たり前なので、こういうことはなかなかないですよね。
とても丁寧な方は、スタッフを呼び止めて何かを頼む時、
「When you get a chance」と付け加えてくれます。
こちらが忙しいのを気遣って、「できる時でいいから」とお願いの後に添えてくれるのです。
こういったお客様からの優しさは日本ではなかなかないように思います。

日本では「お客様は神様」と謳って従業員がお客様にどれだけ尽くせるかが重視されますが、
心からそう思って取り組める人は実状では少ないのではないでしょうか?
海外のラフな接客では「お客様は神様」ではありませんが、
この環境のほうが逆にお客様に対して心から尽くしたいと思えるような気がします。
オーストラリアでお客様からの「ありがとう」に触れるたび、
自分も働く人を気遣えるような、心の広いカスタマーになろうと心に誓うのでした。